日本唾液ケア研究会の見解
国民皆歯科健診は、原点を見据えての構築を望む
う蝕と歯周病は、細菌感染症であることから、感染対策を行うと病気になるリスクは大きく減ります。しかし、これらの原因菌は、結核菌のように外から入ってくる微生物ではなく、常に口に存在する常在細菌1)です。う蝕と歯周病の発生は、病因論2)からすると外因ですが、内因感染症となります。内因感染であるので、特定の感染対策を常にし続ける必要があります。歯を磨き続けるのはそのためですが、歯磨きだけが歯を守っているわけではありません。
口腔には病気にならないための仕組みが存在し、その中心を担うのが唾液です。唾液は、99.5%が水分ですが、0.5%に抗菌物質などの様々な有効成分を含み口腔を24時間守っています。一方、唾液の状態が悪ければ、う蝕や歯周病になり易くなります。また、唾液を検査するとう蝕や歯周病のなりやすさや病気の状態もわかります。唾液は、う蝕と歯周病に関連の深い存在ですが、歯科医院でう蝕や歯周病のリスク診断などの唾液検査を受けたことのある方は少ない筈です。これは、健康保険に導入されていないからです。しかし、特定非営利活動法人日本唾液ケア研究会(以下、当会)は、唾液を用いた疾患リスクの判定に基づき、予防プログラムを個別に提供し、長期管理が必要な予防医療も健康保険に含めてこそ理想の歯科医療と考えています。
国民皆歯科健診3)は、検診でなく健診として制度設計を目指すようです。う蝕と歯周病の病因論から考えると、1次予防4)として健診での対応は極めて理論的です。口腔の健康は全身の健康につながるので、歯科健診を行う必要性を全身との関連で説明することに論を待ちません。当会でも、口腔と全身を結び付ける学術研究の推進を使命として活動しています。しかし、最も身近なところに歯科健診をしなくていけない意義があるのです。病因論という究極的な原点を見据えて、国民皆歯科健診の制度構築を行うべきであり、それと同時に歯科医療全体を検討することが必要です。
当会は、唾液を専門的で学際的に取り扱うNPO法人格を取得した初めての公益的な研究会です。そして、口腔の健康が全身の健康につながることを、唾液の機能性5)から新たな健康像6)として提案しています。また、唾液の科学を追求し、唾液検査を含めた唾液ケア外来7)の構築など唾液を基盤とし、口腔から国民の健康増進を目指しています。
当会は、国民皆歯科健診の推進が国民の健康に寄与するという意見に賛意を示します。この新たな健診制度の中で唾液検査は、極めて重要な位置づけになることが予想され、唾液検査を含めた唾液科学を学問的に進めることを社会的使命と自覚し、多くの国民の皆様と一緒に健康増進活動を進めていきたいと考えています。
用語説明
1)常在細菌